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洋楽文化史研究会 創立25周年記念演奏会 見よ東海の空開けて――敗戦80年に問う戦時期の音楽――

 本年2025年は、アジア・太平洋戦争の敗戦から80年の節目を迎えます。戦後の歳月の流れとともに、戦時期の記憶は徐々に風化しつつあり、歴史的事実を次世代へ継承する作業が急務となっております。こうした社会状況の中、洋楽文化史研究会は、発足以来25年にわたり、研究報告を中心とした例会の開催とともに、戦時中に演奏された音楽作品を当時の楽譜に基づいて再演する活動を継続してきました。これまで同会は、2007年に旧東京音楽学校奏楽堂において「再現演奏会1941-1945―日本音楽文化協会の時代―」を、2012年には津田ホールにおいて「生誕125年信時潔とその系譜」を開催し、戦時期の音楽文化を社会的文脈の中で捉える試みを重ねてきました。これらの演奏会では、単なる楽曲再現にとどまらず、その時代における音楽の機能や社会的役割に対する批判的検討を重ねてきました。

 今回の演奏会では、総力戦体制化の国威発揚や危機意思の喚起の一方で、厭戦・反戦・反軍感情や、心情の音楽を求める人びとの意識など、錯綜する時代状況を、浪曲を含む当時の音楽作品から再考します。

 第1部「戦時期の象徴」では、政府機関である内閣情報部が作詞・作曲を公募し、1937年に発表された《愛國行進曲》と、報道機関である大阪毎日新聞と東京日日新聞が作詞・作曲を公募し、1940年に発表された《國民進軍歌》を最初に据え、戦時期の社会風潮を反映させた音楽を俯瞰します。とりわけ第1部では2人の音楽家、戦前に新進気鋭のジャズ・ピアニストとして名を馳せた和田肇、留学先でエゴン・ヴェレスとシェーンベルクに師事し帰国後に「モダニズム」の作曲家として出発し東京音楽学校の教授となった橋本國彦の両名の作品に注目します。和田の、軽快なジャズスタイルを持ち味としつつも社会的要請に応じて編曲した《海の進軍》《婦人愛国の歌》《戦い抜かう大東亜戦》のピアノメドレー、橋本の、山本五十六の戦死を受けて作曲されたカンタータ『英霊讃歌――山本元帥に捧ぐ』を中心に、戦時体制下の中での音楽家の創作態度と社会との関係を改めて考えます。《愛國行進曲》を第一部の軸に据えたのは、『英霊讃歌』のcodaで《愛國行進曲》のモティーフが描かれることを象徴する意味もあります。なお、今回の演奏会場である旧東京音楽学校奏楽堂は、戦時中に『英霊讃歌』が録音された場所であり、約80年を経て本楽曲が再び奏でられることは、当時の音響空間を再現しつつ、戦時音楽の歴史的位相を検証するに相応しい会場です。

 第2部「銃後に、前線に―日常に寄り添う音楽―」では、戦時下における人々の社会意識を反映させた西洋音楽および芸能を取り上げます。1944年11月号『音楽文化』誌に掲載されたレコード発売枚数ランキングに基づき、《若鷲の歌》《大航空の歌》《空の神兵》《月月火水木金金》や愛国浪曲などの戦意昂揚や教化動員を目的とした作品の一方で、人びとの心情を歌う《別れ船》《暁に祈る》や「唄入り観音経」、厭戦・反戦・反軍感情を反映させた「兵隊ソング」(《軍隊小唄》《海軍小唄》《可愛いスーちゃん》)を再演し、戦争中に生きた人々の「本音」と「建前」を照射します。

 さらに、演奏会に先立ち、研究報告および演奏者との鼎談を含む例会を実施し、研究者と演奏者との枠を超えて、戦時期の音楽と社会との関連性を学術的視点から多面的な検討を加える予定です。

 以上の取り組みを通じて、「戦争の時代」の歴史的事実を直視し、音楽から反戦平和を考えることが本企画の趣旨となります。

・開催日 2025年8月2日 14時開演

・出演 合唱:コーロ・カロス 指揮:栗山文昭 テノール:五郎部俊朗 ピアノ:寺嶋陸也、相川陽子、山下暁子、鈴木絢子 浪曲師:三門柳 曲師:広沢美舟

・会場 旧東京音楽学校奏楽堂

・主催 洋楽文化史研究会

チケット発売などの演奏会情報は随時、Webサイトで発表いたします。

・問い合わせ先(メールアドレス) miyotokai.concert@gmail.com

・後援 公益社団法人日本演奏連盟、一般社団法人音楽樹、公益財団法人スポーツ安全協会スポーツ活動等普及奨励助成事業